追悼

先日受けた作文試験のテーマに引っ張られて、長らく書いていなかったブログを読み返した。流れで自分の日記を読み返した。ひっどいもんだなと目を細めながら、当時の自分に思いを馳せた。

 

私へ。絶望のどん底で帰国した私へ。お元気ですか。
一年たってもコロナは消えませんでした。春も夏も秋も冬も、マスクを外して外に出られた日はありませんでした。
見えない菌に侵されて沢山の人が死にました。それ以上に沢山の人が期待や希望、夢を叶える瞬間を失いました。皆、私だけじゃないからと我慢してきました。でも我慢は美徳ではないのかもしれないと多くの人が気付き始めました。
私へ。春の桜は綺麗です。ホテルで泥のように眠る私へ。お母さんは私を心配して花見に誘います。あなたはホテルでスーツを纏った疲れた背中のおじさん達が無言で朝食を口に運ぶ姿に酷く失望して、車で涙を流してました。こんな国滅びてしまえと泣きました。こんな世界こんな星滅びてしまえと全てを呪いました。春の桜は綺麗でした。桜をこんなに間近で楽しむことができる日本人でいられてよかったなと思いました。
旅の時間一緒に過ごした猫は今、私の机の前の棚で退屈そうに座っています。そろそろシャンプーをしてあげたら毛並みも元に戻るかもしれません。
私へ。少したてば舞台ができるかもしれないと思った私へ。舞台はできません。あなたが淡い期待を抱いてたてた計画は全て無駄になります。私は生きている意味が本当にわからなくなります。私を止めた全ての人が私の敵に思えてきます。でも私へ。私にはまだ準備ができていませんでした。それに私へ。コロナの中でやったこともない舞台演出を務められるほどあなたは強かでも穏やかでもありませんでした。でもいつか、舞台を作ることができた日には、この時感じた憤りが、無力感が役に立つと思うのです。
私へ。ドイツ語はやはりできません。それでも言葉が好きだと思っていた私へ。あなたを傷つけようとして放った訳ではない友人の言葉が、私の胸を力強く食い破っていきます。人は人の心がわかりません。だから言葉があるのです。そう知っているのにあなたは何度も何度も言葉によって胃がねじ切れそうな思いをします。私は私の言葉を選んで発して、時には口を閉じることも必要だと学び続けていかなければならないのでしょう。人が選んだ言葉に実は意味はありません。受け取り手が意味を定めるのです。だから言葉を慎重に、時には話半分に受け取っていきたいですね。
私へ。皆、皆、変わっていきます。どこかへ行ってしまいます。嗚呼、あの時あの人に会っておけばよかったんだと後悔します。でも長い時間をかけて、来るべき時に人は再会します。だから人の服の袖を掴んで離さない、なんて幼い真似はやめましょう。一言「さびしいね」と伝えてください。それが次の約束になるのです。

私へ。死ぬ意味もないけど生きる意味もないなと仄暗く考えていた私へ。お元気ですか、と訊くのも申し訳ないぐらいだけど、お元気ですか。私はおかげ様で、元気です。驚くかもしれないけど、もうすぐで車の免許が取れそうです。乃木坂の曲って結構いいじゃん!ってAmazon Musicに登録して曲を聴いています。前々から好きだな~と思ってた白石麻衣ちゃんは、何か月か前に卒業コンサートを開いていました。無観客のオンラインコンサートだったけれど、純白のドレスをまとって綺麗でした。私が大好きな『私の少年』は完結しました。最終話を最初に見た時は何とも言えない気持ちになったけれど、今はあれがあの物語の終着点じゃなくて通過点なのかもしれないと思えています。日記は、今4冊目を書いていて、きっと5冊目に近々突入します。ずっと会いたいな、会いたくないな、と思ってた友だちと8年ぶりに再会して、二人で駅前のマックでポテトをつまみました。相変わらず秘密主義で、別れた時より自嘲気味になってて勝手にちょっとだけうんざりしました。失礼だけど。一生会わない方が良かったかな、といつか思うかもしれないけど、それでもそこで繋がった縁だから、大切にしてもらえるなら大切にしようかなって思うのです。就活は良くも悪くも思った通りの進み方をしています。今がこれから来る時間の中で一番早い瞬間なのだから、始めるなら今だ、と毎秒思ってるだろうけれど、それを実践させられるように頑張りたい。難しい。妹は、大学生になれます。第一希望の学部じゃないけれど、妹が自分で呪縛を解いて新しい場所に行くんだと思うと、私はすごく嬉しい。弟は、1年前に色々あって、まだそこから立ち直れてない気がするのです。残念だけど可哀想だと思う余裕はなくて、これからどうなるか見守るしかないと思っています。なるようにしかならないのだと知ったのがこの一年の大きな収穫なので。

私へ。一年たちますが、お元気ですか。未来は明るくも晴れてもいませんが、そのまま進んでいっても悪くないんじゃないかと思っています。

生きる意味などありません。自分がいる場所を愛せなくても苦しまなくていいのです。私達には時間があります。同時に、走り続けなければ時間切れにもなるでしょう。

どこでもいいからここじゃない場所に行ってください。でも時々戻ってのんびりしてもいいんです。あなたの時間なんだから。

矛盾の中で人生を感じてください。いつか振り返って、物語が書けるような瞬間をもとめてまだしぶとく、生きていきましょう。

 

私より